top of page
  • Tetsuo Kuboyama

Hospitality Topics #7 ホテルマネジメント実践編 顧客不在のマーケティング:レベニュー・マネジメントの限界

#レベニュー・マネジメント, #イールド・マネジメント, #顧客不在のマーケティング


<要旨>

①航空業界で生まれたレベニュー・マネジメントをホテルで運用することに限界が生じつつある

②ホテルの事業特性をふまえると繰り返し利用してくれる固定客との長期的関係性の構築により注力することが合理的

③企業にとって都合が良いことは、顧客にとって不合理であることが多い


******


ホテルがレベニュー・マネジメント(Revenue Management)(イールド・マネジメント:Yield Managementとも呼ばれる)に依存すると「固定客不在の無感情のマーケティング」という落とし穴に陥ってしまいます。

レベニュー・マネジメントは1980 年代に登場した手法で、需要と供給を予測し、そのバランスに則した価格を決定するもので、航空業界やホテル、レストラン業界などで導入されています。ホテルはサービス供給量の制約、供給サービスの非保存性、大きな需要変動という事業特性があります。つまり、どんなに需要があっても100室しかないホテルはそれ以上売れないし、どんなに閑散としていても100室を維持するコストをかけ続けなければならない。従って、こうした環境の中で売上高を極大化する唯一の操作変数は価格であると結論されています(デロイトトーマツFAS編,2009)。しかし、その価格の決定を間違えると、大切な顧客が離れてしまうというリスクがあります。


極端な例ですが、数年前に某ビジネスホテルが交通事情で都内に客が溢れると見るや、普段1室5000円程度で販売していた客室を10倍近い金額で販売したことが議論を呼びました。ある人はそれが需要と供給の経済ルールだと主張しますが、実態は異なります。「部屋の広さにしてはあまりにも高すぎる」「客の足元をみている」「電車が停まり自宅に帰れないから仕方なく利用した。通常利用したくない」等々、利用客の声が取り上げられていました。


「間尺に合う」「間尺に合わない」という表現がありますが、正にそれが生じてしまうことで、最悪の場合、顧客が離れていってしまうのです。企業にとっては合理性が高くても、顧客にとっては不合理と感じることがあります。そのホテルが好きで利用していた顧客がある日突然、普段の数倍の料金を提示されれば「このホテルは自分のことを大切に思ってくれているのだろうか」と疑問に思うでしょう。供給不足であるという事実は理解しても、何倍も料金が高くなるのは「間尺に合わない」ものです。

ホテルの例だけではありません。皆さんも普段からそうした判断をしているはずです。

「安いけど、買いたくない」「高いけど、買いたい」という感情は、経済合理性では説明のつかない現象です。


先程のホテルの事例に戻りますと、ビジネスホテルの場合、提供できる施設サービスに制約が多いため、他社との差別化が難しく、結果としてコモディティを追求せざるを得ず、供給不足の際には価格を引き上げたいという事情は理解しますが、私が経営者だったならば、何倍も価格を吊り上げることはしません。企業というのは顧客が困っている時こそ、顧客に配慮するべきです。確かに、高価格で売れるけれども、無茶な値段にしない。そうすると、そこに信頼感・安心感が生まれる。それを大切にするべきです。数日程度の特需の利益をむさぼるより、顧客との中長期の関係性(エンゲージメント)を保全した方が結局経営的合理性を高めることにつながるのです。

どんなカテゴリーのホテルだろうと、日ごろ贔屓にしてくれている顧客の心理を読み、それに沿った対応をした方が長期的には持続的経営が可能になるはずです。先ほど述べたように、供給に制約があるホテルという事業特性を考えると、固定客の存在がとても重要になります。景気や価格の変動で利用客が増えたり減ったりする状況よりも、一定数の固定客が存在する状況の方が結局は効率が良く持続的です。特にコロナ禍を経て、そのことを実感したホテルは多くあります。ホテル会員など底堅い固定客が困難な時期を支えてくれたのです。


レベニュー・マネジメントは、デジタル技術及び顧客のITリテラシーの向上、顧客の価値観の多様化を前に、より高い精度が求められるようになっています。顧客の参照価格(この商品サービスならばこの金額が妥当だろうと顧客の心の中で形成される価格イメージ)(上田,1999他)の予測は、先程の「間尺に合う、合わない」問題を計算することですが、可能なのでしょうか。近年では個人単位で異なる価格設定を行うPersonalized Pricingが模索されており(兼子・上田,2022)、ホテル業界でもレベニュー・マネジメントをベースに、予約システムの性能向上と連動したより動的な価格設定を行うDynamic Pricingを展開しています。しかし、それでも顧客の不満は生じてしまいます。例えば友人と旅行した際、同じホテルの同タイプの客室料金が互いに全く違うことを知った時、顧客は不公平感を覚えるものです(Wirtz et al., 2003)。このような状況の中で、海外のホテルのレベニューマネージャーはどのようなことを考えているのでしょうか。

コーネル大学のKimes教授による調査(Kimes,2011)では、将来のレベニュー・マネジメントは個々の顧客の志向性をより反映した運用が重視される傾向にあり、用いられるKPIについても従来のRevPARよりも、総売上高またはGOPの方が重視されつつあることが分かっています。すなわち利益率の高い宿泊部門の利益の最大化を遂行する方針から、付帯施設の利用を含めた包括的なホテルサービス体験を注視する姿勢へと変化しているのです。


特に高級シティホテルの場合は、客室単価だけではなく、一人当たりの総合消費額とリピート率に目標値を設定するべきです。ホテル経営・運営は、その不合理を合理へと転換するマネジメント能力が必要とされます。ホテルという商売は、顧客が安定することで成立します。短期や瞬時の需給バランスに一喜一憂するより、顧客との共創を重んじて、他のホテルとの競争に勝つ。この競争の勝利の方程式は、ホテルと顧客の「相互信頼の感情と勘定」です。顧客の感情を傷つければ「勘定」は間尺に合わないものとなってしまう。

こうしたことは、古い情緒的なマーケティングを志向しているように見えるかもしれません。でもこれは、北欧を中心に急速に拡大している最新のマーケティングコンセプトとも整合性のある志向なのです。


References

上田隆穂 (1999).「消費者の価値判断基準―参照価格と文脈(コンテクスト)効果―」『学習院大学 経済論集』35(3、4), pp.151-171.

兼子良久・上田隆穂(2022).「プライシングの系譜」『マーケティングジャーナル』41(3), pp.6-17.

デロイトトーマツFAS編著(2009).『金融・不動産の視点から見るホテルマネジメント15のポイント』銀行研究社.

Kimes, S. (2011). The Future of Hotel Revenue Management, Journal of Revenue and Pricing Management, 10(1), pp.62-72.

Wirtz, J., Kimes, S., Ho, J., and Patterson, P. (2003). Revenue Management: Resolving Potential Customer Conflicts, Journal of Revenue and Pricing Management, 2(3), pp.216-226.

閲覧数:56回0件のコメント

Comentários


bottom of page